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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)69号 判決

被告人

大西義正

主文

本件控訴を棄却する。

当審に於る未決勾留日数中百五十日をその本刑に算入する。

理由

前略

控訴趣意第一乃至第三点について。

二人以上の者がある犯罪を行うことを通謀しそのうち一部の者がその犯罪行爲を実行した場合にはその実行々爲に携はらなかつた他の一部の者もこれを実行した者と同樣に共同正犯の罪責を免れないとすることは大審院並びに最高裁判所の判例の趣旨とするところである。そしてその通謀者中の一部の者かその犯罪行爲を実行した場合にはその実行々爲に携はらなかつた他の一部の者においてたといその犯罪行爲を実行する以前すでにその通謀関係から離脱する意志を包懷していたとしてもその実行行爲の前に通謀者に対し通謀関係から離脱すべき旨の表意をしてこれを解消する等の措置を講じない限り共同正犯の罪責を免れることはできぬものといはなければならない。そもそも我が刑法上特別の場合を除いては罪を犯そうとする意志を有していてもこれを実行することがなければ犯罪を構成するものでないことは敢て説明を要しないところであつてこれは單独犯の場合はもとより共同正犯の場合も亦同樣である。しかしひるがへつて考へるに共同正犯の場合においては罪を犯そうとする意志は勿論單独のそれではなく二人以上の共同意志である。そしてその犯罪行爲を遂行したときは即ち共同意志を実行したものに外ならないのである。かような場合には実行行爲に携はらなかつた者においてたとい実行行爲の前に既にその通謀関係から離脱する意思を包懷していたとしてもその者が当初に通謀した共同意思はその遂行行爲によつて発現したのであるから通謀関係から離脱する意思を包懷していたという一事によつては共同正犯の罪責を免かれることはできないのである。今原判決が証拠によつて認定した被告人関係の事実を見るとその要旨は被告人は原審共同被告人三名と原判示吉田旅館こと吉田光子方に侵入して窃盜しようと相謀つた上原判示日時右四名で右旅館附近に行つたところ被告人は他の三名と行動を共にせず行橋駅附近にいたが他の三名の行爲を阻止するに至らず原審共同被告人吉浦靜夫は見張をし同領木三男、同野木武は同旅館に侵入し同族館において原判示のように窃盜をしたものである。というのであつて被告人が右犯行前本件通謀関係を解消すべき何等の措置をも講じなかつたことが明瞭である。すると上來説示のように被告人は原審共同被告人三名と共に原判示犯行の共同正犯としての罪責は到底免かれることはできないのである。從つて原判決が被告人の右所爲に対し原判示法條を問擬したのは正当であつて原判決には所論のように事実の誤認乃至は擬律の錯誤の違法はなく論旨摘録の判例は本件の場合には適切ではない。論旨は理由がない。

以下省略

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